「居場所と出番」が、市民を“まちづくりの主役”に/鯖江市・牧野市長インタビュー

福井県にある人口6万9千人ほどの「鯖江市」。

市政に女子高生を迎えて事業を考案する『JK課』、「市長をやりませんか?」のキャッチコピーのもと、全国の学生が集まり鯖江市の地域課題を解決するプランを発表する『地域活性化プランコンテスト』など、この市で実施される施策は斬新そのもので、今までの自治体の概念を覆すような市政ばかりです。

そして、鯖江市のすごいところが、これらの市政で、しっかりと成果が出ていること。人口増加、財政の健全化など全国の自治体が参考とすべきポイントがてんこ盛りの自治体であると思います。

眼鏡産業が盛んで、「めがねのまち」としてのブランディングも引き立っている

この市政の中心にいるのが、市長の牧野百男さん。4期連続で市長に就任し、鯖江を面白く活気ある街に変えていった張本人です。

市民を巻き込み「一緒になって鯖江市を良い街にしていく!」と考え実施している市政は、昨今注目される、“コミュニティ形成”の文脈にも置き換えられる、成功例でもあると思えます。

今回参加した、全国のローカルメディアが集まりツアーを行う「ローカルメディア巡業ものがたり」で、牧野市長にお話を伺いました。

聞き手・文:地域商社2.0「浅見制作所」代表 浅見 ゆたか (@azamixx821)
写真:草加 和輝(@ksk1414812)

住民が「自分ごと」として市のことを考えている鯖江市

– 牧野市長、今日はよろしくお願いします。

牧野市長 おお、よう来てくださった!こちらこそよろしくお願いします!

– さて、早速なのですが、鯖江市はここ数年、人口が増加し続けていると知りました。要因はなんでしょうか?

牧野市長 まずは、交通の便が良いというところですかねぇ。大企業の工場が集まる「越前市」と県都「福井市」、この中間に位置していることは大きいと思いますよ。特に、越前市に集まっている大企業が元気ですからね。

– なるほど、人が集まりやすい立地なんですね。

牧野市長 あとは、UターンIターンが増えているんですよ。河和田地区(鯖江市の一地区)を中心に50人近くU・Iターン者がいて。若い人が帰ってこれる場所になってきているのかなと。

– そんなにU・Iターン者がいるんですね、すごい…。なぜ、若い人が帰ってこられる場所になってきているのでしょうか。

牧野市長 そうですね、最近ようやく産業が復活して、地元にいる人も「帰ってこい」って言えるようになったのかなぁと。鯖江市はバブル崩壊後は失われた20年、30年っていわれていました。本当、何もないところだって(笑)。
そこから、漆器や眼鏡の産業が息を吹き返して、世界展開なんかも見えてきたことで、その将来性にも注目され始めたんだと思います。

– なるほど。

牧野市長 それと、大きな要因がもう一つ。それは、若い人がこの地に残ってくれるようになったことですね。

– それは、一度外に出て戻って来るのではなく、留まる、ということですか?

牧野市長 そうそう!若い人が地域のことに関わり、地域を盛り上げることに楽しみを覚えるようになったと思うんです。それを加速させた取り組みに「JK課」や「地域活性化プランコンテスト」などがあります。特にJK課は関わった最初の女子高生19名中18名が県内に残って、うち14人が引き続き地域活動や行政支援をしているんですよ。

JK課:JK(女子高生)が市政に参加して、新しいまちづくりを企画する取り組み

地域活性化プランコンテスト:全国の学生が鯖江に集まり、地域課題を解決するプランを練って発表する取り組み。地元のNPO団体が企画・運営

– 都会に出ず、そのまま鯖江に残って地域に関わっているんですね。

牧野市長 そう、やっぱり地域を知ることで残ってくれるんですよね。地域のことを知って活動をしていくことで、どんどん地域のことが“他人ごと”から“自分ごと”」に変わっていったんだと思います
JK課も市役所が溜まり場になってますからね(笑)。一年のうち100日くらいは市役所にいるんじゃないですかね。それくらい、しっかりと関わってくれるんです。

– なぜ、そこまで若い人は地域への関わりを持ってくれるんでしょうか。

牧野市長 若い人から提案してもらったものは「必ず何かしら形にする」と、職員が本当に一生懸命になって取り組むのが大きいのかなと。名前だけでも残して、事業に活かそうとか。
そうして、若い人たちは「自分たちの声をしっかり聞いてもらえるんだ」と感じ、地域への愛着も湧いているんじゃないかなと。

– なるほど、若い人たちに地域活動における「成功体験」を生ませているんですね。

 

「若い力」が「大人の価値観と常識」を変える

– そんな新しい施策を行うとき、意味があるのか?どれくらい効果があるんだ?といろんな反発があったと思いますが、その辺りは市長としてどのように折り合いをつけていたのでしょうか?

牧野市長 まあ、強引にやっちゃうんだよね(笑)

– す、素晴らしい(笑)

牧野市長 というのも、「大人の常識と価値観」を変えていかなきゃいけないってことはずっと思っていたんです。

– 「大人の常識と価値観」…ですか。

牧野市長 そう。税金を払ってるから行政からサービスを受けられる、という「大人の価値観と常識」を変えなきゃいけないんです。
だって、今の複雑化した行政サービスがずっと続くわけないじゃないですか。どこかで変わっていかないと、今後、絶対に持続しなくなっていきます。

– 確かに。持続可能な状態ではないと思います。

牧野市長 そこで大事なのが「若い力」。若い人の感性はものすごく素晴らしいですからね。
大人はどうしてもプライドがあって、新しいことや変わったことに踏み出そうとするのに二の足を踏んでしまう。でも若い人は「楽しい、美味しい、かっこいい、面白い」という感性的なもので動いちゃうんですよね。
そうすると、今までの感覚ではできなかったことにチャレンジできるんです。

– わかります。大人になればなるほど、考えは凝り固まってしまいますからね。

牧野市長 だから、若い人から出て来たアイデアをやろうとすると、周りの大人からは「何を馬鹿なこと言ってるんだ」って、散々言われますよ(笑)。でも実際、その新しい取り組みで街が変わってきています。

「居場所と出番」を作って、市民に機会を与える

– 批判されても萎縮せず、突き進むのがすごいですね(笑)

牧野市長 周りから批判されようとも、市民が声を上げやすく、関わりやすい場を作り続けなければいけないと思うんですよ。なので、僕たち行政は「居場所と出番」を用意して、サポートに徹するようにしています。

– 「居場所と出番」ですか。

牧野市長 市民が参加できる場所と、活躍できる機会を作るということですね。

– なるほど、市民参加型の取り組みを行うわけですね。具体的に「居場所と出番」はどのように作られているんですか?

牧野市長 色々ありますが、鯖江市では「提案型市民主役事業」というのをやっているんです。市が行う800の事業の内、約200の事業は民間に任せても問題ないものなんですが、それらを市民に担ってもらうというものです。

– そうなんですか!それは面白い。具体的にはどんな事業があるんですか?

牧野市長 セミナー、フェスティバル、演劇や講演など、様々な事業がありますが、そのような事業は市が主体でやるより民間でやった方が良いものになるんですよね。そういった事業を公募しています。

– なるほど。反応はいかがですか?

牧野市長 最初は、市民が担ってくれるようになったのは17ほどの事業だけだったのですが、その後どんどん増えて、今では50の事業を市民が担ってくれています。

– それはすごい!ちなみに、大人たちが手をあげるのは、若い人たの活動が影響しているんでしょうか。

牧野市長 やっぱり、JK課などで若い人たちが市政に参加しているのを見て、大人の価値観も変わってきてるんでしょうね。だから「居場所と出番」を用意すれば、大人を含めた市民は必ず出てきてくれるんです。

– 確かに。市民の意識の高さもすごいですね!

牧野市長 800ある事業のうち、200ほどを市民が担ってくれれば、市役所職員は今“本当に求められている行政サービス”に注力することができるわけですよ。職員の数は限られていますからね。

– なるほど。官民で好循環を産むことができそうですね。

「面白い」が人が人を呼んでいる

– 様々な取り組みを行う上で、関わる人々を増やすのも重要かと思います。そういった、関わる人材を増やすのはどのようにされているのでしょうか?

牧野市長 うちは本当に「面白い」ということだけで、人々が集まっている気がします。
一つの面白いことをきっかけに、次はこういうことやろうとか、こんなことも必要じゃないか?って。そうして自然と人が集まっていくんです。
どういう担い手を作ろうとか考えたことがないですよ全てが自然体で集まっていて。人が人を呼んでいるんでしょうね。

– お金のインセンティブではなく、「面白い」が動機になって人が集まるのがすごいですね。

牧野市長 そうして集まった人たちが相乗効果を生みます。すると「鯖江に行けばなんか面白いことがある」って思われるようになったんですよね。
ゴミ拾いのイベントですら、告知をしなくても100人以上が集まってしまう(笑)。そういう街になったってことなんですよ。「JK課」とか「ゆるい移住」とかをやり続けて、市民が参加しやすい場所が作れているんだと思います。

ゆるい移住:2015年に鯖江市が実施した、移住施策。鯖江に移住してもらう、ではなく、興味を持ってもらう、を目的とした移住体験

 

市民との距離を縮めていった鯖江市役所

同席した鯖江市役所 政策経営部 めがねのまちさばえ戦略室 齋藤室長(右)と法水参事(左)

– 牧野市長が初めて市長に就任した時、鯖江市は今のような活気ある状況だったのでしょうか?

牧野市長 もちろん、今のような状態ではなかったですよ。そもそも、市役所の職員が沈んでいたという感じでしたね。いやあ、就任した直後は本当にびっくりしましたよ。平成の合併などもあって、かなり大変な時期で、職員の向いている方向はバラバラだったんですよ。

– なるほど、波乱のスタートだったわけですね…

牧野市長 とにかく職員のみんなに頼んだのは「融和と協働」でいこう、ということ。よくよく職員の話を聞けば、誰もが「鯖江を良くしたい」という思いは持っていました。なら、向かう先は同じ!その向かう先までの道筋を「融和と協働」で改善していこうと話していったんです。
そんな声を上げ続け、一年くらいたった頃に、ようやく職員が少しずつ変わっていったと思います。

– 実際、牧野市長のそのような方針を聞いて、いかがでしたか?(同席した職員の齋藤さんに質問)

齋藤さん 市長からは「とにかく市民の声を聞け」!と言われて、市民が集まる場所にどんどん出向いて参加しました。市民と一緒になって活動する中で「市民の生の声」というものがわかってきたんです。そこから、どんどん市民との距離感が縮まっていった感覚があります。

牧野市長 僕の信念は「現場は宝の山」。とにかく、現場に行こうって話をし続けたわけです。全職員を「まちづくりモニター」にしてボランティアで参加してもらったりしましたよ。
どこのイベントや集まりに行っても、必ず職員がいましたからね。珍しいと思います(笑)。

齋藤さん あと、忘れられないのが、移住施策をやるときに市長がかけてくれた言葉ですよ。
「移住施策をやるなら、なんとか残ってもらわないといけない」って思って重く受け止めていたけど、市長からは「いや、来てもらう人に楽しんでもらうだけでいいんだって、鯖江市を知ってもらえればいいんだって」そう言われて、気持ちがすごく楽になりました。そう言ってくれた市長に応えたいな、って想いから、一生懸命やろう!と思えたんです。

– それは心強い言葉ですね。

齋藤さん はい、本当にそうですね。でも、そうやって進めた施策はしっかりと結果が出ました。
「ゆるい移住」も参加した15人は最初「鯖江に移住する気は全くない」とアンケートに答えていて、新聞でも「失敗施策」のように書かれたんですが、終わってみれば、半分の人は移住してくれたわけですから(笑)。

– すごいギャップですね(笑)

牧野市長 新しいことやるのに「リスクとハレーション」はつきもの責任取るって言っても言わなくても結局は責任取るんだから(笑)。だから「責任は僕が取る」って職員には言うんですよ(笑)

– (市長の器の広さたるや…)

 

やりたいことはゼロ予算でも始める

– 実際、新しいことをやろうとすると、予算も必要となると思います。議会の理解を得られないことも多いのではないかと思うのですが、どのようにしているのですか?

牧野市長 もちろん、議会でもいろんな意見が出ますよ(笑)。だから、これは予算がつけられないだろうな、ということは、予算ゼロでスタートしちゃうんです。JK課も予算ゼロですよ(笑)

– 予算をつけないで、走らせてしまうんですね!すごい!

牧野市長 まあ、予算がつけられなければ、クラウドファンディングなどをやったりして資金を集めますね。実は鯖江市で実施しているクラウドファンディングは全て成功しているんです。ありがたいことに、市民が本当に手伝ってくれてるんですよ。

– 市民が味方になっているんですね…すごいなぁ

牧野市長 市民力だと思いますよ。議会で一部反対意見があっても、事業を始めてしまえば市民がついてきてくれるんです。引っ張られないところまで足を上げ切ってしまえば、引っ張られることもないわけで。まあ、引っ張られる時は大変でしたけどね(笑)

– 確かに(笑)

牧野市長 あとは、市民の皆さんの支持のおかげで、選挙に忙しくないのがいいですね(笑)。選挙の予算もかからないですから。「公職選挙予算」も返上したくらい。
※牧野市長は2期連続で対抗馬の出ない「無投票当選」で任期を更新している

 

持続可能な社会を作っていく

– 最後に、今後やっていきたいことはなどを伺えますでしょうか?

牧野市長 とにかく、持続可能な社会にしていかないと、っていうのはありますね。そのために必要なのがSDGs。これは、企業よりも自治体がやるべきで、自治体が持続可能な社会を作らないと。だけど、これを説明するのはなかなか難しいなあと(笑)。

– 確かに。リソースが分散化する地方こそが持続可能なコミュニティになるためには、SDGsの考えはとてもしっくりきます。

牧野市長 全てが持続可能でないとダメなんですよ。いかに、もたせるかってことなんですよ。鯖江のインフラを維持していこうとすると年間で80億円必要なんですよ、税収と同じくらいの話。こんな状態では持続可能にしていくのかってところがとても大事なんですよね。

– なるほど。

牧野市長 持続可能な観点で言えば、財政の健全化には一番先に手をつけたんです。子や孫にツケを回さないように、というのはとても意識しましたね。親の世代の借金を若い人たちが返さなきゃ、ってのは、おかしな話なわけで(笑)
施設の建築なども35年ではなく20年債で組んだり、市民公募債を発行したり。市民公募債は、即日売れてしまうんですよ!これも本当にすごい。そうして、市民が株主になって、市政を自分ごと化していきます。

– 財政が健全で持続可能な状態は、やはり注目されるポイントだと思います。

牧野市長 そうそう。鯖江市にサテライトオフィスを出す企業も増えているんですが、「人口が増えている」「財政が健全である」ということが決め手で、鯖江を選んでいるようで。やはりいくつかの場所を比較検討する上で、これらはとても魅力的なんだと思います。衰退化しているところではなく、活気のあるところにサテライトオフィスは出したいのだと。

– もう、人口は増える一方ですね(笑)

牧野市長 ほんとですね(笑)。ちなみに集まる企業はクリエイティブな会社ばかり。だから東京の仕事も集まるんですよ。それにより賃金も上がるし、関わる人のスキルも上がる。月給が東京の基準と同じってケースも多いんですよ。

– 働き口がそのような水準で用意できるのは本当にすごいですね!

牧野市長 まあ、そうやって市民の皆さんが住みやすい鯖江市が続いていけばいいなと思いますよ。

– なるほど、本当に勉強になりました!ありがとうございました!ぜひ、今回のお話を記事にさせてください。

牧野市長 もちろん!まあ「ゆるい市長」だからね(笑)。どんどんやってください!
こちらこそ、勉強になりましたよ。ありがとうございました!

最後は、市長お気に入りの「鯖江LOVEポーズ」で記念撮影(笑)


「ゆるい市長」、自らそのようなキャッチーな呼び名が出て来るほど、フレンドリーな牧野市長。ゆるさの裏側には、多くの人の反発や批判など、大変な苦労があっただろうと容易に想像がつきますが、そのような様子は一切見せないパワフルな姿に圧倒されました。

市民を巻き込み、一緒になって鯖江市を良くしていく、という参加型市政は、これからの持続可能な社会を構築する上では、とても重要なポイントだと感じました。

住民と一体になる施策は全国自治体でも取り組むべきものと思います。ぜひ、この記事が多くの自治体首長さんに届き、多くの街が住みやすい、安心安全の場になっていけばいいなと切に願っています。

聞き手・文:地域商社2.0「浅見制作所」代表 浅見 ゆたか (@azamixx821)
写真:草加 和輝(@ksk1414812)

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